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いきなり『鳩よ!』と言われても【新保信長】新連載「体験的雑誌クロニクル」15冊目

新保信長「体験的雑誌クロニクル」15冊目

 

11冊目】で書いたように80年代は広告ブームで、コピーライターがスター扱いされていた時代である。巻頭特集「ランボーが圧倒的。ランボーってだれ?」で取り上げた詩人のランボーも、まさに当時のサントリーローヤルのCM「あんな男 ちょっといない」で一気に知名度が上がった人物だ。偶然の一致というよりも、広告コピーが注目された時代の流れに乗った創刊と考えるのが自然だろう。 

 というか、何のことはない、ランボー特集の末尾でそのCMについての言及があり、CMプランナーのコメントとコピー全文が掲載されている。特集冒頭には繰上和美によるイメージ写真にランボーの詩をからめたグラビアがあるが、それもまたCMのビジュアルにインスパイアされた感じで、CMありきの企画としか思えない。

 

ランボー特集の扉。『鳩よ!』(マガジンハウス)1983年12月創刊号p8-9より

 

 「コピーライターのコトバ特集」には、糸井重里、眞木準、長沢岳夫、魚住勉、土屋耕一といった売れっ子コピーライターへのアンケートのほか、開高健、山口瞳らのサントリー時代の作品、大正から昭和にかけての天才コピーライター・片岡敏郎の紹介記事などが並ぶ。

 〈「鳩よ!」のキャッチコピーを考えてください。〉という募集告知も目を引く。審査員はCMプランナーの杉山恒太郎と川崎徹、コピーライターの杉本英介、『鳩よ!』編集長、マガジンハウス宣伝部長といったメンツ(杉山恒太郎は前述のサントリーローヤルのCMを手がけた人物)。「詩の雑誌」を標榜するなら一人ぐらい詩人を入れてもよさそうなものだが、このギョーカイっぽさがマガジンハウスらしいとも言える。

 ほかに、中島みゆきの歌詞、ねじめ正一、伊藤比呂美、吉原幸子らの詩(既存の詩集からの抜粋)や杉田かおる、林葉直子の詩(書き下ろし?)にイメージ写真を付けたグラビア風のページがあるかと思えば、谷川俊太郎⇔佳村萠、岩谷時子⇔坂東玉三郎、久保田早紀⇔村上春樹、内藤陳⇔水森亜土、井坂洋子⇔桑田佳祐の「手紙詩」(往復書簡的なもの)、たむらしげるのマンガや渡辺和博のエッセイ風小説連載もあった。映画や本の情報コーナーは「POPPOPPOP」と書いて「ポッポッポ」と読ませる(『鳩よ!』だけに)。

 どの雑誌でも創刊号は方向性が定まり切らず混沌としているものだが、『鳩よ!』も例外ではない。個人的には正直あまりピンとこなくて、2号目以降を続けて買う気にはなれなかった。当時は大学生で、懐事情が厳しかったというのもある。

 たまに書店でパラパラ立ち読みはしていたが、次に同誌を買ったのは3年後、198612月号だった。なぜその号を買ったかというと、本の特集だったから。〈作る、売る、読む。本は今日もドラマチック。〉との惹句のとおり、編集者にもスポットを当てている。大学4年生、すでに就職活動は終盤だったが、出版社をめざしていた身としては、興味を引かれるのも当然だ。 

 巻頭は、内田春菊による一日書店員体験ルポ。続いて、「ユニークな本を生む編集者は何者?」と題された記事で3人の編集者が登場する。

 トップバッターは、林真理子の初エッセイ『ルンルンを買っておうちに帰ろう』、渡辺和博とタラコプロダクションの『金魂巻』など、ベストセラーを連発する主婦の友社・松川邦生氏。2人目は、坂本龍一主宰の出版社・本本堂の義江邦夫氏。そして3人目が〈直木賞製造マシーンは、作家と血ダルマになって人生劇場する〉と紹介される見城徹氏だ。

 当時は『月刊カドカワ』編集長で〈業界の暴れん坊、注目度No.1の若き青年編集者はアルマーニに身を包んでやってきた〉〈「とりあえず、食事でもしながら話をしましょうか」と先手を打たれ、もしやここはニューヨーク、まるでビジネスランチ、と、きっちりしめられたネクタイを見つめてしまう〉と、のっけから押し出しの強さを感じさせる。

 

『鳩よ!』(マガジンハウス)1986年12月号。記事画像はp12-13より

 

 「業界アマプロ人 本のことなら聞いてください。」のコーナーでは、取次や小出版社、自費出版社、書店カバー愛好家、貸本文化研究家、投書投稿評論家など、本に関わるさまざまな立場の専門家にインタビュー。泉麻人、正木ノンによる執筆日記、玖保キリコ、渡辺えり子(現・えり)、松浦理英子、島田雅彦らに聞く「この本で私が変わった一冊との出会い」など、定番的な企画もある。

 特集にしっかりページを割きつつ、投稿コーナー「読者からの詩」、詩人が自分の原点となった詩について綴る「詩の領分」、新作や詩集からの再録を掲載する「今月の詩」など、詩の雑誌としての根幹はキープ。創刊号から続く「POPPOPPOP」や「今日のコトバ」ほか、連載もいくつか。創刊時と比べると、デザインも含め雑誌としてはずいぶんまとまってきたというか、こなれてきた感じがする(キャッチコピーも「ポエティック情報誌」に変更されていた)。

 その後は、「コミックソングを歌おう!」(1987年6月号)、「万有博士 澁澤龍彦」(1992年4月号)、「記録魔」(199411月号)、「おばかな本」(1995年7月号)、「読書の最前線」(1997年4月号)など、気になる特集があれば手に取ってきた。

次のページ雑誌として20年近く存続しただけでも立派!

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新保信長

しんぼ のぶなが

流しの編集者&ライター

1964年大阪生まれ。東京大学文学部心理学科卒。流しの編集者&ライター。単行本やムックの編集・執筆を手がける。「南信長」名義でマンガ解説も。著書に『国歌斉唱♪――「君が代」と世界の国歌はどう違う?』『虎バカ本の世界』『字が汚い!』『声が通らない!』ほか。南信長名義では『現代マンガの冒険者たち』『マンガの食卓』『1979年の奇跡』など。新刊『漫画家の自画像』(左右社)が絶賛発売中です!

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